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計算式とトレード技術の磨き方とは

計算式とトレード技術の磨き方とは

写真3:サイボーグ昆虫 写真提供:神崎亮平所長

昆虫の持つ驚異の知能を技術で生かす――生物が進化で獲得した能力を活用して、持続可能な地球を

オスのガ(蛾)が、メスの出すフェロモンの匂いをどこまでも追って行く――ファーブル「昆虫記」の中の有名な実験である。
それから120年。東京大学先端科学技術研究センター所長の神崎亮平教授のチームは、昆虫が進化により獲得した知能(生物知能)を再現して活用するため、カイコガの脳の精密な神経回路モデルをスーパーコンピューターに再現した。そして昆虫自身が操縦するロボットや、脳が作り出す信号でフェロモンを追うロボット「サイボーグ昆虫」を作り出した。
昆虫の脳は、人の100万分の1しかない。にもかかわらず、何kmも離れた匂いに向かってまっしぐらに素早く行動する。移動中に衝突をすることもない。その驚きの能力を生かそうというわけだ。神崎教授らはさらに、昆虫が持つ匂いを検出する触角のしくみを再現することにより、特定の化学物質を検出しそれを探し出すカイコガ「警察昆虫」や、特定の匂いを検出するとピカッと光る細胞「センサー細胞」を遺伝子工学の技術を活用して開発を進めている。
「昆虫はきわめて省エネで、高効率な問題解決能力を何億年もの進化の過程で獲得しました。AIでも難しいことを、本能的に簡単にやってのけます」と言う。こうした私たちがまだ知らない、進化のなかで獲得されてきた昆虫の能力の活用は、人にも環境にもよりやさしい「課題解決の方法」の宝庫だ。SDGs (持続可能な開発目標)にもかなう発想である。このようなアプローチは、これまでにない新しいモノづくりの方法になるだろう。
さまざまな可能性に挑戦する神崎教授に、私たちが知らない驚異の昆虫の能力と、今後の研究開発の方向、展望などについて伺った。

東京大学先端科学技術研究センター所長/教授。
●専門は、神経行動学。カイコガのフェロモン源探索行動の研究や、昆虫制御型ロボット(サイボーグ昆虫)、スーパーコンピューターによる大規模脳シミュレーションなどで知られる世界的な生物学者。
●経歴: 和歌山県橋本市出身。1986年筑波大学大学院生物科学研究科博士課程を修了。 アリゾナ大学神経生物学研究所博士研究員、筑波大学生物科学系助手、講師、助教授を経て、2003 年同大学教授。2004 年より東京大学大学院情報理工学系研究科教授、2006 年より東京大学先端科学技術研究センター教授。
2016 年より東京大学先端科学技術研究センター所長。2019 年ミラノ・ビコッカ大学名誉学位。
●受賞: 日本比較生理生化学会学会賞、日本ロボット学会論文賞、日本神経回路学会最優秀研究賞、JSPS ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞、橋本市文化賞など受賞多数。

昆虫はヒトの100万分の1の脳で情報処理し、素早く行動する

――先生は、「昆虫研究によって『新しい価値』を見出す」と述べておられます。昆虫の「新しい価値」とはどのようなものでしょうか。

神崎 地球上に生息する生物は約180万種で、ヒトはそのうちの1種です。全体の50%を超える100万種が昆虫で、地球上のさまざまな環境で生息し、そこでの課題を解決して生きています。
彼らが進化の過程で身に付けた能力は実に豊富です。例えば、ガはメスの出すフェロモンという匂いを遠くから検知して探索します。ハチは仲間同士で顔認識をします。コオロギは1度けんかして負けた相手とは2度とけんかしません。個体識別ができるわけです。ショウジョウバエやトンボは、高速で群れて飛び回っても衝突しません。視力は0.01以下、立体視もできないにも関わらずです。
こうした昆虫が、いったい環境下のどのような情報を使って、どのように処理し、そのような能力が生まれるかは重要で、われわれがまだ知らない環境下の情報を使っていることが多く、新しい価値をそこに見出すことができます。これを人や環境に優しい新しいモノづくりに活用することができるわけです。

――カイコガを生物知能の研究対象に選ばれた理由は何でしょうか。

神崎 カイコは絹を作るので、「おかいこさん」といって昔から身近な存在でした。1970年代まではカイコを飼育する養蚕農家が全国にたくさんありました。また、遺伝学の研究では、日本特有の材料でした。カイコガ(写真1)はボンビコールという名前の付いたフェロモンの匂いが触角で受容されると反応し、完璧に行動するという性質があります。ボンビコール1種類の刺激だけで行動が起こるので、動物が行動を起こす感覚や脳のしくみを明らかにするうえで優れたモデルになるのです。このフェロモンが最初に発見されたのはカイコガで、ドイツのノーベル賞学者が1959年に化学構造を決定しました。
高校の生物の教科書では、動物の行動のしくみを学ぶ理科実験にカイコガを使うことが勧められています。高校の先生と協力をして、カイコガが行動する時の神経や筋肉から出る電気信号を計る装置を3000円くらいで作るプロジェクトを始めています。全国の高校に広めていきたいと考えています。ぜひ支援を願いします。

オスのカイコガ


写真1:オスのカイコガ 写真提供:神崎亮平所長

昆虫が生きる環境世界は、ヒトとは異なる

――先生は昆虫の環境世界(脳内に構築される外界の世界)は、ヒトとは異なると述べておられます。具体的にどのように違うのか、なぜそういう現象が起きるのでしょうか。

神崎 環境世界の違いを「感覚」「時間」「大きさ」の3つに分けてお話ししましょう。
まず「感覚」ですが、昆虫の目は複眼で、視力は0.01以下しかありません。さらに眼の構造上、私たちのようには立体視ができません。目が悪くて、立体視もできないような世界でありながらも、飛んでいる虫を自分も飛びながら捕らえ、障害物をサッと避けることができるのです。
逆に私たちが検知できない偏光を見ることができます。偏光は青空ではあるパターンで分布します。昆虫はこのパターンから、たとえ太陽が雲間に隠れて見えなくても、その方向がわかります。この能力によって、太陽と巣箱と餌場の関係から、自分の巣やエサ場に飛んで行くことができます。

神崎亮平所長

科学技術は、AIの次の知能である生物知能を生かすこと

――カイコガはフェロモンに瞬時に反応して行動を開始します。脳内ではどのような情報処理が行われているのでしょうか。ヒトとの違いを説明していただけますか。

神崎 カイコガのメスのフェロモンはお尻の先にあるフェロモン腺でつくられます。そこから放出されたフェロモン(ボンビコール)が風の流れに乗ってオスの触角に届くと、触角にある匂いセンサーにとらえられます。ボンビコールに反応するセンサーには、ボンビコールのみに結合するボンビコール受容体というたんぱく質があります。ボンビコールが受容体と結合すると受容体を通してセンサー内にCaイオンが流れ込み、センサーが信号(活動電位)を発生します。その信号が脳に流れ、さまざまな処理がなされ、最終的に前運動中枢という特別な場所に伝えられます。この場所にある神経回路でカイコガがフェロモンを探し出す行動を起こす命令が作られ、胸部や腹部に伝わり、あしやはねが適切に動くわけです。

生物の脳の基本的な構造図 資料提供:神崎亮平所長


図1:生物の脳の基本的な構造図 資料提供:神崎亮平所長

神崎亮平所長

――先生が開発された「昆虫操縦型ロボット」や「サイボーグ昆虫」は、世界を驚かせました。そのメカニズムを説明していただけますか。

神崎 「昆虫操縦型ロボット」(写真2)は、空気で浮上しているボールの上にオスのカイコガを乗せ、カイコガ自身に移動ロボットを操縦させる装置です。このようなロボットを使って、昆虫がどれくらいの能力(生物知能といってよいと思いますが)を持っているかを試したのです。
ロボット上のカイコガがフェロモンを検知して動きだすと、玉乗りのようにボールが前後左右に動くので、回転を光学センサーで計測して、その信号でロボットを動かします。するとロボットはカイコガが動いたのと同じように動くわけです。カイコガはロボットを操縦して見事にフェロモン源にたどり着きます。

昆虫操縦型ロボット


写真2:昆虫操縦型ロボット 写真提供:神崎亮平所長

サイボーグ昆虫


写真3:サイボーグ昆虫 写真提供:神崎亮平所長

空港で違法薬物を検知する「警察昆虫」

――こうした昆虫の嗅覚の能力を生かした「警察昆虫」、「センサー細胞」について説明していただけますか。

神崎 計算式とトレード技術の磨き方とは 特定の匂いを検出し、その発生源を探し出すことは非常に重要です。例えば、被災地で生き埋めになっている被害者の救出、爆発物、麻薬などの検出は、安全安心にかかわる重要な仕事です。ただ、現状は、そのような特定の匂いを高感度で検出できる工学的なセンサーはなく、さらには昆虫のように匂い源を探索するような優れたアルゴリズムもない状況です。そのような状況下で昆虫の嗅覚能力が注目され、昆虫の匂いセンサーや脳のしくみを再現する研究が急速に展開しています。その背景には、遺伝子工学やスーパーコンピューターなどの長足の発展があります。

神崎所長

生物が進化の中で獲得した問題解決法をモノ作りに生かす

――スーパーコンピューターに昆虫の神経回路モデル(写真4)を構築しておられますが、脳が再現できるのは驚きです。

神崎 昆虫の脳は1㎜くらいと小さいので、顕微鏡を使って脳全体を見ることができます。微分干渉顕微鏡といって、脳内の構造をコントラストを上げてみることのできる顕微鏡がありますが、それを使ってカイコガの脳を見ると、神経細胞(ニューロン)の細胞体という場所が1つ1つ観察できます。そこで、目的とするニューロンを決めて、それ目指して直径が1万分の1ミリのごく細いガラス電極を刺して、そのニューロンから反応を計測し、電極に入れた色素を注入することで、形を調べることができます。そのような1つ1つのニューロンの情報をデータベースに登録しています。これまでに約1600個のニューロンの情報が登録されました。そして、そのデータを使って、1つ1つのニューロンから神経の回路を、ジグソーパズルを組み上げていくようにして再現していきます。

経回路モデル


写真4:スーパーコンピューターに再現した神経回路モデル 写真提供:神崎亮平所長

神崎所長

アートやデザインも包含した異分野融合を進める

――先生の研究には神経科学、遺伝子工学、コンピューター、ロボットなど多彩な専門家が参加しておられます。先端研で生み出される異分野融合について、お考えをお聞かせください。

神崎 先端研は32年前に設立されましたが、設立の目的は、人と社会の安寧のための新しい科学や技術の新領域を開拓することにあります。言い方を変えれば、これから先の人や社会の在り方、ビジョンを常に考え、その実現のためにチャレンジを続けることにあります。その実現のため、工学、情報学、理学、医学などの理系、社会科学などの文系、さらにはバリアフリー分野を1つの研究所に集約させるという奇抜な発想のもと設立され、わが国を代表する学際的な研究所のさきがけとなっています。

最先端の科学や技術に日々接する中、最適な解を求めるこれまでの科学や技術の在り方に少々違和感を持ち始めています。多様な人々が暮らす中で、最適な解は確かに一部の人を幸せにするかもしれませんが、多くの幸せからは遠くなります。2030年を目指した持続可能な開発目標(SDGs)が、No one left behind(誰一人取り残さない)を理念として国連から提出されました。
もちろんこれまでの科学技術の恩恵により、現在の人類の発展があることも事実です。しかし一方で、最適解を求めるがゆえに、人類が生んだ科学技術がさまざまな格差や自然環境に悪影響を与えてきたことも否めません。多様な人や複雑な自然との太刀打ちは容易ではなく、その限界があらわになってきたのです。これまでの科学技術をいかにして多様な人々、さらには社会(インクルーシブな社会)の安寧に貢献できるように軌道修正するかは大きな課題です。

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