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取引慣行に関する独占禁止法上の指針

取引慣行に関する独占禁止法上の指針

弁護士法人 三宅法律事務所

2 流通・取引慣行ガイドライン
独占禁止法上の問題を検討する上では、公正取引委員会が策定している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」)が重要となります。流通・取引慣行ガイドラインは、平成29年6月に改正がなされ、ガイドライン全体の構成が変更されるとともに、インターネットを利用した取引に関する記述の追加や、垂直的制限行為(事業者が取引先事業者に対して行う行為)の適法・違法性判断基準の明確化などが行われました。もっとも、今回のテーマである再販売価格の拘束に関する記述については、具体的な事例に関する記述の追加や文言の修正のほかは大きな変更はありません。
再販売価格の拘束に関して、流通・取引慣行ガイドラインでは「事業者がマーケティングの一環として、又は流通業者の要請を受けて、流通業者の販売価格を拘束する場合には、(中略)このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる」と規定されています。また、再販売価格の拘束行為には、セーフハーバー・ルール(市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者が行う場合には、通常は違法とならないというルール)の適用がないとされています。つまり、事業者が再販売価格の拘束を行った場合、事業者の市場シェア等にかかわらず、原則として違法な行為と判断されるということになります。
なお、「正当な理由」がある場合には、例外的に違法とはならないとされていますが、例外の適用の有無については慎重に判断する必要があります。

3 具体的検討
具体的に、どのような行為が再販売価格の拘束として違法となるのでしょうか。
流通・取引慣行ガイドラインでは、「事業者が設定する希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは、それ自体は問題となるものではない」とされており、希望小売価格を伝えること自体は違法ではないとされています。しかし、「希望小売価格」として表示していたとしても、何らかの手段により、当該価格で販売することについての実効性が確保されている場合は、再販売価格の拘束となる可能性があります。例えば、希望小売価格以下で販売しないことを書面または口頭で約束させる、希望小売価格以下の価格で販売する小売店に対して商品の出荷量を減らすなどの不利益を課すといった行為は、再販売価格の拘束を行っていると判断されるおそれがあります。

4 事業者の留意点
事業者が、違法な再販売価格の拘束を行った場合、公正取引委員会により排除措置命令(独占禁止法20条)が課され、違反行為が繰り返された場合には、課徴金納付命令(同法20条の5)の対象となります。事業者としては、希望小売価格を示す際には、再販売価格の拘束と見られないよう、希望小売価格があくまでも参考であり、実際の販売価格は自由に決定できる旨を明示することが望ましいといえます。
なお、前述のガイドライン改正により、インターネットを利用した取引か実店舗における取引かで考え方は異ならないと明示されており、インターネット上で取引を行っている事業者についても、同様に留意が必要です。

流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針

1 流通・取引に関する慣行は,歴史的,社会的背景の中で形成されてきたものであり,世界の各国において様々な特色を持っているが,その在り方については,常に見直され,より良いものへと変化していくことが求められている。我が国の流通・取引慣行についても,経済活動のグローバル化や,技術革新等によって,日々目まぐるしく進展・変化してきている。このような状況において,事業者の創意工夫を発揮させ,消費者の利益が一層確保されるようにするためには,公正かつ自由な競争を促進し,市場メカニズムの機能を十分に発揮し得るようにしていくことが重要である。具体的には,[1]事業者の市場への自由な参入が妨げられず,[2]それぞれの事業者の取引先の選択が自由かつ自主的に行われ,[3]価格その他の取引条件の設定がそれぞれの事業者の自由かつ自主的な判断で行われ,また,[4]価格,品質,サービスを中心とした公正な手段による競争が行われることが必要である。
本指針は,我が国の流通・取引慣行について,どのような行為が,公正かつ自由な競争を妨げ,独占禁止法に違反するのかを具体的に明らかにすることによって,事業者及び事業者団体の独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てようとするものである。

2 本指針第1部は,部品メーカーと完成品メーカー,メーカーと卸売業者や小売業者といった,事業者間の取引における取引先事業者(特段の記載がない場合には直接又は間接の取引先事業者をいう。以下同じ。)の事業活動に対する制限に関して,第2部は,事業者による取引先の選択に関して,また,第3部は,国内市場全域を対象とする総代理店に関して,独占禁止法上の指針を示したものである。
本指針は,主として商品の取引について独占禁止法上の考え方を示したものであるが,役務の取引についてもその考え方は基本的には同様である。

3 本指針は,流通・取引慣行に関し,独占禁止法上問題となる主要な行為類型についてその考え方を示したものであるが,独占禁止法上問題となる行為はこれに限られるものではない。例えば,価格カルテル,供給量制限カルテル,購入数量カルテル,入札談合などは原則として独占禁止法に違反するものであることはいうまでもない。したがって,本指針に取り上げられていない行為が独占禁止法上問題となるかどうかは,同法の規定に照らして個別具体的に判断されるものである。

第1部 取引先事業者の事業活動に対する制限

1 対象範囲
(1) 事業者が,例えば,マーケティングの一環として,卸売業者や小売業者といった流通業者の販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等に関与し,影響を及ぼす場合には,ブランド間競争(メーカー等の供給者間の競争及び異なるブランドの商品を取り扱う流通業者等の間の競争をいう。以下同じ。)やブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う流通業者等の間の競争をいう。以下同じ。)を減少・消滅させる効果を生じることがある。
第1部では,事業者が,取引先事業者に対して行う,販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等の制限及びリベートの供与について,不公正な取引方法に関する規制の観点から,独占禁止法上の考え方を明らかにしている(注1)。
Eコマースの発展・拡大に伴い,様々なビジネスモデルが創出され,事業者は,広告や流通経路などにおいて,インターネットの利用を活発に行っている。特に,インターネットを利用した取引は,実店舗における取引といった従来の取引方法と比べ,より広い地域や様々な顧客と取引することができるなど,事業者にとっても顧客にとっても有用な手段となっている。以下において,このようなインターネットを利用した取引か実店舗における取引かで基本的な考え方を異にするものではない。
また,ショッピングモール,オンラインマーケットプレイス,オンライン旅行予約サービス,家庭用ゲーム機など,消費者と商品を提供する事業者といった異なる二つ以上の利用者グループを組み合わせ,それぞれのグループの利用の程度が互いに影響を与え合うような,いわゆるプラットフォームを運営・提供する事業者(以下「プラットフォーム事業者」という。)による,当該プラットフォームを利用する事業者に対する行為についても,基本的な考え方を異にするものではない。

(2) 大規模小売業者と納入業者との関係などでみられるように,事業者間の取引において,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。このような行為は,公正な競争を阻害するおそれがあることから,不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として独占禁止法により規制される。具体的には,「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日)によって,その規制の考え方が明らかにされている。
このほか,不当廉売及びこれに関連する差別対価については,「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月18日)等によって,その規制の考え方が明らかにされている(注1)。

2 垂直的制限行為が競争に及ぼす影響についての基本的な考え方

独占禁止法は,事業者が不公正な取引方法等の行為を行うことを禁止し,公正かつ自由な競争を促進することによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としている。
事業者が,取引先事業者の販売価格,取扱商品,販売地域,取引先等の制限を行う行為(以下「垂直的制限行為」といい,垂直的制限行為には,契約によって制限をする場合のほか,事業者が直接又は間接に要請することなどにより事実上制限する場合も含む(注2)。)は,その程度・態様等により,競争に様々な影響を及ぼす。 取引慣行に関する独占禁止法上の指針
例えば,垂直的制限行為によって,事業者の創意工夫による事業活動を妨げたり,ブランド間競争やブランド内競争が減少・消滅したり,参入障壁が高くなって新規参入者を排除したり,消費者の商品選択が狭められたりといった競争を阻害する効果がもたらされる場合がある。
他方,垂直的制限行為によって,新商品の販売が促進されたり,新規参入が容易になったり,品質やサービスが向上するといった競争を促進する効果がもたらされる場合もある。
このように,垂直的制限行為は,競争に影響を及ぼす場合であっても,競争を阻害する効果を生じることもあれば,競争を促進する効果を生じることもある。
公正かつ自由な競争が促進されるためには,各取引段階において公正かつ自由な競争が確保されていることが必要であり,ブランド間競争とブランド内競争のいずれか一方が確保されていれば他方が失われたとしても実現できるというものではない。

3 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準

垂直的制限行為には,再販売価格維持行為(詳細は後記第1参照)と,取引先事業者の取扱商品,販売地域,取引先等の制限を行う行為(以下「非価格制限行為」という。)がある。
再 販売価格維持行為は,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるため,通常,競争阻害効果が大きく,原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為である。
一方,非価格制限行為は,一般的に,その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響が異なる。すなわち,非価格制限行為の中には,[1]行為類型のみから違法と判断されるのではなく,個々のケースに応じて,当該行為を行う事業者の市場における地位等から,「市場閉鎖効果が生じる場合」や,「価格維持効果が生じる場合」といった公正な競争を阻害するおそれがある場合に当たるか否かが判断されるもの及び[2]通常,価格競争を阻害するおそれがあり,当該行為を行う事業者の市場における地位を問わず,原則として公正な競争を阻害するおそれがあると判断されるものがある。
なお,複数の非価格制限行為が同時に行われている場合や再販売価格維持行為も併せて行われている場合に,ある非価格制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかを判断するに当たっては,同時に行われている他の非価格制限行為又は再販売価格維持行為による影響を踏まえて判断されることもある。

「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。
「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記 (1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。例えば,このような制限を行う事業者の市場における地位が高いほど,そうでない場合と比較して,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。 取引慣行に関する独占禁止法上の指針
なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。

「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。
「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記(1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限(後記第2の3(3)参照)が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。
なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。

垂直的制限行為には,「市場における有力な事業者」によって当該行為が行われた場合に不公正な取引方法として違法となるおそれがあるものがある。後記第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)がこれに当たる。
「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては,当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様であり,地理的条件,取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場をいい,基本的には,需要者にとっての代替性という観点から判断されるが,必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮される。)におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となる。ただし,この目安を超えたのみで,その事業者の行為が違法とされるものではなく,当該行為によって「市場閉鎖効果が生じる場合」又は「価格維持効果が生じる場合」に違法となる。
市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者がこれらの行為を行う場合には,通常,公正な競争を阻害するおそれはなく,違法とはならない。

第1 再販売価格維持行為

1 考え方

(1) 事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは,事業者の事業活動において最も基本的な事項であり,かつ,これによって事業者間の競争と消費者の選択が確保される。
事業者がマーケティングの一環として,又は流通業者の要請を受けて,流通業者の販売価格を拘束する場合には,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになることから,このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる。

(注4) 事業者が希望小売価格等を設定する場合においては,再販売価格を拘束すること(再販売価格の拘束に当たるかどうかについては,下記2において述べる考え方に基づき判断される。)にならなければ,通常問題となるものではない。
なお,希望小売価格等を流通業者に通知する場合には,「正価」,「定価」といった表示や金額のみの表示ではなく,「参考価格」,「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な用語を用いるとともに,通知文書等において,希望小売価格等はあくまでも参考であること,流通業者の販売価格はそれぞれの流通業者が自主的に決めるべきものであることを明示することが,独占禁止法違反行為の未然防止の観点から望ましい。

2 再販売価格の拘束

(2) 「正当な理由」は,事業者による自社商品の再販売価格の拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され,それによって当該商品の需要が増大し,消費者の利益の増進が図られ,当該競争促進効果が,再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において,必要な範囲及び必要な期間に限り,認められる。
例えば,事業者が再販売価格の拘束を行った場合に,当該再販売価格の拘束によって前記第1部の3(3)アに示されるような,いわゆる「フリーライダー問題」の解消等を通じ,実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され,それによって当該商品の需要が増大し,消費者の利益の増進が図られ,当該競争促進効果が,当該再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合には,「正当な理由」があると認められる。

(3) 再販売価格の拘束の有無は,事業者の何らかの人為的手段によって,流通業者が当該事業者の示した価格で販売することについての実効性が確保されていると認められるかどうかで判断される。
次のような場合には,「流通業者が事業者の示した価格で販売することについての実効性が確保されている」と判断される。

(具体例)
X社は,X社製キャンプ用品について,翌シーズンに小売業者が販売を行うに当たっての販売ルール(以下「販売ルール」という。)を次のとおり定めていた。
ア 販売価格は,X社製キャンプ用品ごとにX社が定める下限の価格以上の価格とする。
イ 割引販売は,他社の商品を含めた全ての商品を対象として実施する場合又は実店舗における在庫処分を目的として,X社が指定する日以降,チラシ広告を行わずに実施する場合に限り認める。
X社はX社製キャンプ用品について,自ら又は取引先卸売業者を通じて
ア 継続して取引を行う小売業者に対しては,翌シーズンの取引について商談を行うに当たり,X社が定めた下限の価格を記載した見積書を提示するなどして,販売ルールに従って販売するよう要請し
イ 新たにX社製キャンプ用品の取引を希望する小売業者に対しては,取引開始に当たり,販売ルールに従って販売するよう要請し
X社が他の小売業者にも販売ルールに従って販売させることを前提に,小売業者から販売ルールに従って販売する旨の同意を得て,当該小売業者に販売ルールに従って販売するようにさせていた。
このようなX社の行為は,独占禁止法第2条第9項第4号イ及びロに該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。(平成28年6月15日排除措置命令,平成28年(措)第7号)

(具体例)
[1] インターネットを用いた音楽配信業務において,コンテンツプロバイダーA社が,ポータルサイトを運営するプラットフォーム事業者B社との間で,A社が指示する価格で音楽配信することを定めた委託販売契約を締結することは,A社がB社に対し,A社の提供する楽曲のB社のサーバーへのアップロード及び代金徴収業務のみを委託するものであり,実質的にはA社が自らの保有する楽曲を利用者に直接提供するものと認められ,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。(平成16年度相談事例集「3 音楽配信サービスにおけるコンテンツプロバイダーによる価格の指定」)

[2] 産業用部品AのメーカーであるX社が,同社のユーザーであるZ社との間で,産業用部品Aの販売価格を取り決め,X社の代理店であるY社に対し,当該価格でZ社に納入するよう指示すること(具体的には,Y社にZ社向け産業用部品Aの物流,代金回収及び在庫保管の責任を負ってもらうこととし,その履行に対する手数料は,Y社のZ社への納入価格とY社のX社からの購入価格との差額とする。)は,Y社は物流,代金回収及び在庫保管の責任を負うが,Y社が負う在庫管理に伴う危険負担は極めて低いと考えられることから,実質的にみてX社がZ社へ直接販売していると認められる。また,X社が指示するのはY社がZ社に納入する価格のみであり,Y社がZ社以外のユーザーに販売する際の価格や,Y社以外の代理店が販売する際の価格を指示するものではないことから,X社の産業用部品Aについての価格競争に与える影響はほとんどないと考えられる。したがって,独占禁止法上問題となるものではない。(平成21年度相談事例集「2 代理店の再販売価格の拘束」)

3 流通調査

第2 非価格制限行為

1 考え方

2 自己の競争者との取引等の制限

イ 市場における有力な事業者が,例えば次のように,取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者(注6)の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為,取引先事業者に自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者との取引を拒絶させる行為,取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者の商品と競争関係にある商品(以下「競争品」という。)の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより,市場閉鎖効果が生じる場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶),11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))。 取引慣行に関する独占禁止法上の指針
なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,前記第1部の3(1)及び(2)アにおいて述べた考え方に基づき判断される。例えば,このような制限を行う事業者の商品が強いブランド力を有している場合や競争者の供給余力が総じて小さい場合には,そうでない場合と比較して,取引先事業者にとって当該事業者から商品の供給を受けることがより重要となり,当該制限の実効性が高まることから,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。また,制限の期間が長期間にわたるほど,制限の相手方の数が多いほど,競争者にとって制限の相手方との取引が重要であるほど,そうでない場合と比較して,市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが制限を行う場合と比べ市場全体として市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなる。

イ 市場における有力な事業者が,取引先事業者に対し,自己の競争者から取引の申込みを受けたときには必ずその内容を自己に通知し,自己が対抗的に販売価格を当該競争者の提示する価格と同一の価格又はこれよりも有利な価格に引き下げれば,当該取引先事業者は当該競争者とは取引しないこと又は自己との従来の取引数量を維持することを約束させて取引し,これによって市場閉鎖効果が生じる場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定11項又は12項)。
なお,「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては,上記(1)「取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限」において述べた考え方と同様である。

3 販売地域に関する制限

事業者が流通業者に対し地域外顧客への受動的販売の制限を行い,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。
地域外顧客への受動的販売の制限は,厳格な地域制限と比較して,地域外の顧客からの求めに応じた販売をも制限している分,ブランド内競争を制限する効果が大きい。
例えば,インターネットを利用した販売において,流通業者のウェブサイトを見た顧客が当該流通業者に注文し,その結果販売につながった場合,これは受動的販売に当たる。メールマガジンを受信するなど,当該流通業者からの情報を継続して受け取ることとした顧客が,当該情報を見て当該流通業者に注文し,その結果販売につながった場合も同様である。このような場合において,事業者が流通業者に対し一定の地域を割り当て,顧客の配送先情報等から当該顧客の住所が地域外であることが判明した場合,当該顧客とのインターネットを利用した取引を停止させることは,地域外顧客への受動的販売の制限に当たり,これによって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる。

4 流通業者の取引先に関する制限

5 選択的流通

6 小売業者の販売方法に関する制限

(具体例)
[1] 医療機器AのメーカーであるX社が,取引先事業者に対し,自社ブランドの医療機器Aについて,通信販売及び通信販売を行う事業者への販売を禁止すること(具体的な方法として,取引先事業者が,X社の医療機器Aの通信販売を行っている,又は通信販売業者にX社の医療機器Aを販売しているとの情報に接した場合には,当該取引先事業者に対し,通信販売をやめるよう,又は通信販売業者への販売をやめるよう要請し,それでもやめない事業者に対しては,X社の医療機器Aの出荷を停止する。)は,
ア(ア)X社の医療機器Aは,調整が行われないままで販売されると性能の発揮が著しく阻害され,消費者に不利益を与える蓋然性が高いこと
(イ)X社の医療機器Aの調整は通信販売では行うことができないこと
(ウ)消費者が販売時の調整を必要としない機器に限定して行う通信販売についてまで禁止するものではなく,必要最小限の制限であること
からすれば,本件取組を行う合理的な理由があると考えられること
イ 全ての取引先事業者について同等の制限が課せられること
ウ 店舗販売を行うX社の取引先事業者の中には,希望小売価格より相当程度低い価格で販売を行う者も存在し,本件が,取引先事業者の販売価格について制限を行うものであるとは考えられないこと
から,X社が取引先事業者の事業活動を不当に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。(平成23年度相談事例集「1 医療機器メーカーによる通信販売の禁止」)

[2] 機械製品AのメーカーであるX社が,小売業者に対して,一般消費者に新商品の機能を説明することを義務付けること(具体的な方法として,店員による説明又は自社が作成した動画の小売業者のショッピングサイトへの掲載を求める。)は,
ア 義務付ける内容が過度なものではなく,新商品の適切な販売のための合理的な理由が認められること
イ 実質的に同等の条件が全ての小売業者に対して課せられていること
から,独占禁止法上問題となるものではない。(平成26年度相談事例集「6 機械製品メーカーによる新商品の機能の説明の義務付け」)

7 抱き合わせ販売

(1) 考え方
複数の商品を組み合わせることにより,新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供することは,技術革新・販売促進の手法の一つであり,こうした行為それ自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
しかし,事業者が,ある商品(主たる商品)の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることは,当該事業者の主たる商品の市場における地位等によっては,従たる商品の市場における既存の競争者の事業活動を阻害したり,参入障壁を高めたりするような状況等をもたらす可能性がある。

(具体例)
X社及びY社はパソコン用ソフトウェアの開発及びライセンスの供与に係る事業を営む者である。X社の表計算ソフト及びY社のワープロソフトは,それぞれ,市場シェア第1位であった。
X社は,自社と競合するY社のワープロソフトのみがパソコン本体に搭載されて販売されることは,X社のワープロソフトの市場シェアを高める上で重大な障害となるものと危惧し,パソコン製造販売業者に対し,X社の表計算ソフトとワープロソフトを併せてパソコン本体に搭載して出荷する契約を受け入れさせた。これにより,パソコン製造販売業者はX社の表計算ソフトとワープロソフトを併せて搭載したパソコンを発売し,X社のワープロソフトの市場シェアが拡大して市場シェア第1位を占めるに至った。
このようなX社の行為は,一般指定10項に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反する。(平成10年12月14日勧告審決,平成10年(勧)第21号)

(3) ある商品の供給に併せて購入させる商品が「他の商品」といえるか否かについては,組み合わされた商品がそれぞれ独自性を有し,独立して取引の対象とされているか否かという観点から判断される。具体的には,判断に当たって,それぞれの商品について,需要者が異なるか,内容・機能が異なるか(組み合わされた商品の内容・機能が抱き合わせ前のそれぞれの商品と比べて実質的に変わっているかを含む。),需要者が単品で購入することができるか(組み合わされた商品が通常一つの単位として販売又は使用されているかを含む。)等の点が総合的に考慮される。
当該商品の供給に併せて他の商品を「購入させること」に当たるか否かは,ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるか否かによって判断される。
また,ある商品を購入した後に必要となる補完的商品に係る市場(いわゆるアフターマーケット)において特定の商品を購入させる行為も,抱き合わせ販売に含まれる。

第3 リベートの供与

1 考え方

(具体例)
市場における有力な福祉用具メーカーX社が,福祉用具Aを販売するに当たって,インターネット販売業者を対象とせずに,店舗販売業者のみを対象とするリベートを新たに設けること(具体的な方法として,[1]来店した一般消費者に直接適切な商品説明を行うための販売員教育を行うこと,[2]種類ごとに一定の在庫を常時確保することの両方の条件を満たす場合に,当該販売方法を支援するリベートを供与する。当該リベートは,X社の福祉用具Aの販売量によって変動・増減しない固定額で供与される。)は,安値販売を行っているインターネット販売業者についてはリベートを受け取ることができないが,当該リベートは,店舗販売に要する販売コストを支援するためのものであり,インターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではなく,その事業活動を制限するものではないことから,独占禁止法上問題となるものではない。(平成25年度相談事例集「4 福祉用具メーカーによる店舗販売業者のみに対するリベートの供与」)

2 独占禁止法上問題となる場合

取引先事業者に対し,事業者の示した価格で販売しないためにリベートを削減する場合など,リベートを手段として,取引先事業者の販売価格,競争品の取扱い,販売地域,取引先等についての制限が行われる場合には,前記第1及び第2において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束),一般指定11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引))。
また,取引先事業者がいくらで販売するか,競争品を取り扱っているかどうか等によってリベートを差別的に供与する行為それ自体も,取引先事業者に対する違法な制限と同様の機能を持つ場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項(取引条件等の差別取扱い)以下(2)及び(3)も同様。)。
なお,いわゆる払込制(事業者が取引先事業者からマージンの全部又は一部を徴収し,これを一定期間保管した後に,当該取引先事業者に払い戻すこと)が,取引先事業者に対する違法な制限の手段となっている場合又は違法な制限と同様の機能を持つ場合も,上記と同様に判断される。

累進的なリベートは,市場の実態に即した価格形成を促進するという側面を有するものであるが,その累進度が著しく高い場合には,自社製品を他社製品よりも優先的に取り扱わせる機能を持つ。
取引先事業者に対する著しく累進的なリベートの供与が,競争品の取扱制限としての機能を持つこととなる場合は,前記第2の2(1)(取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限)において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される。
すなわち,市場における有力な事業者がこのようなリベートを供与し,これによって取引先事業者の競争品の取扱いを制限することとなり,その結果,市場閉鎖効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項,11項又は12項)。

事業者は,間接の取引先である小売業者に対しても,小売業者の当該事業者の商品の仕入高に応じて,直接に,又は卸売業者を通じてリベートを供与する場合がある。事業者がこのようなリベートを供与する場合において,小売業者に対するリベートの供与額を計算するに当たって,当該事業者の商品の仕入高のうち,特定の卸売業者からの仕入高のみを計算の基礎とする場合には,帳合取引の義務付けとしての機能を持つこととなりやすい。
このようなリベートの供与が,帳合取引の義務付けとしての機能を持つこととなる場合は,前記第2の4(2)(帳合取引の義務付け)において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される。
すなわち,このような機能を持つリベートの供与によって価格維持効果が生じる場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定4項又は12項)。

第2部 取引先の選択

1 事業者は,公正かつ自由な競争を通じ,価格,品質,サービス等の取引条件の優劣に基づいた自主的判断によって取引先の選択を行う。また,事業者は取引先を選択するに当たり,個々の取引における価格,品質,サービス等の取引条件の優劣に加え,供給の安定性,技術開発力,自己の要求への対応の弾力性など購入先の事業者総体としての評価をも併せ考慮する場合がある。事業者が取引先の選択をかかる観点から行い,その結果,事業者間の取引が継続的なものとなっているのであれば,独占禁止法上問題となるものではない。
しかし,事業者が,例えば,既存の取引関係を維持するために他の事業者との間で相互に既存の取引関係を尊重しこれを優先させることを話し合ったり,他の事業者と共同して競争者を排除するような行為を行えば,顧客の獲得を巡って行われる競争が制限されたり,新たな競争者の参入が妨げられ,市場における競争が制限されることとなる。

2 第2部では,自由かつ自主的に行われるべき事業者による取引先の選択において,他の事業者と共同して競争者の新規参入を阻止し又は競争者を排除するような行為等について,独占禁止法上の考え方を明らかにしている。

流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針

1生産財・資本財を中心とした事業者間の取引では、特定の取引先事業者と継続的に取引が行われている場合がある。 事業者が公正かつ自由な競争を通じ、価格、品質、サービス等の取引条件の優劣に基づいた自主的判断によって取引先の選択を行い、その結果、事業者間の取引が継続的なものとなっているのであれば、独占禁止法上問題となるものではない。 また、事業者は取引先を選択するに当たり、個々の取引における価格、品質、サービス等の取引条件の優劣に加え、供給の安定性、技術開発力、自己の要求への対応の弾力性など購入先の事業者総体としての評価をも併せ考慮する場合がある。事業者が取引先から購入しようとする商品・役務の取引条件の優劣の判断をかかる観点からも行い、その結果、事業者間の取引が継続的なものとなっているのであれば、独占禁止法上問題となるものではない。 しかし、事業者が、既存の取引関係の継続を確実にするために他の事業者との間で相互に既存の取引関係を尊重しこれを優先させることを話し合ったり、他の事業者と共同して競争者を排除するような行為を行えば、顧客の獲得をめぐって行われる競争が制限されたり、新たな競争者の参入が妨げられ、市場における競争が制限されることとなる。また、事業者が、自己の競争者と取引しないことを条件として取引先事業者と取引したり、取引先事業者が自己の競争者と取引しないよう圧力をかけたりすれば、新規参入者の参入阻害など市場における競争に悪影響を及ぼすこととなる。

2事業者は、いわゆる安定株主作りのために取引先事業者と株式を相互に持ち合ったり、取引の円滑化のために取引先事業者の株式を所有したりする場合がある。 会社が他の会社の株式を取得し、又は所有することは、競争秩序に影響を及ぼす場合もあることから、独占禁止法上各種の規制がなされているが、これらの規制に抵触しない限り、会社は原則として自由に他の会社の株式を取得し、又は所有することができる。 しかし、株式の取得又は所有自体が規制の対象とならない場合であっても、事業者が取引先事業者の株式を所有していることを手段として株式を所有されている取引先事業者が自己の競争者と取引しないようにさせて取引を継続したり、株式所有関係にある事業者との取引を優先して取引を継続したりすれば、新規参入者等の株式所有関係にない事業者の参入阻害など市場における競争に悪影響を及ぼすことになる。 また、特定の事業者が多くの取引先事業者の株式を所有したり、種々の業種に属する事業者が相互に株式を持ち合い、役員を派遣することなどによって、いわゆる企業集団が形成されている場合があるが、同一の集団に属する事業者間の取引についても同様に考えられる。

第一 顧客獲得競争の制限 編集

1考え方 編集

2事業者が共同して行う顧客獲得競争の制限 編集

3事業者団体による顧客獲得競争の制限 編集

第二 取引慣行に関する独占禁止法上の指針 共同ボイコット 編集

1考え方 編集

市場における公正かつ自由な競争の結果、ある事業者が市場から退出することを余儀なくされたり、市場に参入することができなかったとしても独占禁止法上問題となることはない。 しかし、事業者が競争者や取引先事業者等と共同して又は事業者団体が、新規参入者の市場への参入を妨げたり、既存の事業者を市場から排除しようとする行為は、競争が有効に行われるための前提条件となる事業者の市場への参入の自由を侵害するものであり、原則として違法となる。 共同ボイコットには、様々な態様のものがあり、それが事業者の市場への参入を阻止し、又は事業者を市場から排除することとなる蓋然性の程度、市場構造等により、競争に対する影響の程度は異なる。共同ボイコットが行われ、行為者の数、市場における地位、商品又は役務の特性等からみて、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合には不当な取引制限として違法となる。市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、共同ボイコットは一般に公正な競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法として違法となる。また、事業者団体が共同ボイコットを行う場合にも、事業者団体による競争の実質的制限行為又は競争阻害行為(一定の事業分野における事業者の数を制限する行為、構成事業者の機能活動を不当に制限する行為又は事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにする行為)として原則として違法となる。

独占禁止法上問題となり得る流通段階の取引行為とは?

今日の企業活動は、独占禁止法(以下「独禁法」といいます)に対する関心・懸念が従前よりも強くなっています。独禁法違反は、課徴金命令などの行政処分を受けるだけでなく、コンプライアンス意識を欠いた企業と見られてレピュテーション(評判)の低下を招きます。
このため、企業法務に携わる方々にとって、独禁法の考え方を理解しておくことは非常に有益です。もっとも、独禁法の条文は、他の法令と比べて文言が抽象的ですので、個別具体的な事案において、どの条文が、どのような解釈により、適用されるのかが、分かりにくいと言われています。

メーカーや流通業者にとって重要な「流通・取引慣行ガイドライン」

このような独禁法を理解する上で参考となるのが、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)が定めるガイドラインです。数あるガイドラインのうち、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「流通・取引慣行ガイドライン」といいます)は、流通・取引慣行に関し、独禁法の一般的な考え方を示すとともに、問題となり得る具体的な行為を例示していますので、とても参考になります。
流通・取引慣行ガイドラインは、第1部「取引先事業者の事業活動に対する制限」、第2部「取引先の選択」、第3部「総代理店」の3部構成となっています。直近では、2017年6月16日に改正されています。当該改正は、従来のガイドラインの構成を変えるものでしたが、適法・違法性判断基準が同一の行為類型を統合する等、ガイドラインの内容が分かりやすいものとなりました。
本稿では、部品メーカーと完成品メーカー、メーカーと流通業者、流通業者と流通業者といった事業者間の取引で問題となり得る行為と関係する、第1部「取引先事業者の事業活動に対する制限」について、取り上げることとします。

取引先事業者の事業活動に対する制限について

メーカー等の事業者が卸売業者や小売業者といった流通業者に対して、販売価格、取扱商品、販売地域、取引先等の制限(これらの行為を総称して「垂直的制限行為」といいます)や、リベートの供与を行うと、ブランド間競争(異なるブランドの商品を取り扱う事業者間の競争)やブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う事業者間の競争)を減少・消滅させる効果が生じることがあると言われています。
流通・取引慣行ガイドラインの第1部では、大別すると、垂直的制限行為(第1部第1および第2)およびこれと同様の効果を持つようなリベートの供与(第1部第3)について定めていますが、以下では、垂直的制限行為の例を取り上げることとします。

再販売価格維持行為

再販売価格拘束は原則違法

事業者が流通業者に対し、自社製品の販売価格(再販売価格)を示し、これに拘束させること再販売価格の拘束といいます。このような再販売価格の拘束は、流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるので、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となります(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕)。

例外:「正当な理由」がある場合

再販売価格の拘束が行われる場合であっても、「正当な理由」がある場合には違法とはならないとされています。
この「正当な理由」については、2015年の流通・取引慣行ガイドライン改正で考え方が明確化されており、以下の要件が充足された場合に「正当な理由」があり違法とならないとされています。

  1. 再販売価格の拘束によってブランド間の競争が促進されること
  2. 当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られること
  3. 他の方法によっては当該競争促進効果が生じ得ないこと
  4. 必要な範囲および必要な期間の拘束であること

価格拘束があると再販売価格の拘束があるとみなされる

文書によるか口頭によるかを問わず、事業者と流通業者との間の合意によって、当該事業者の示した価格(確定した価格のみならず、条件付や一定の幅のある設定も含みます)で販売するようにさせている場合や、メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課し、または課すことを示唆する等、何らかの人為的手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせている場合には、再販売価格の拘束があるものとされています。

委託販売や取次販売の場合における価格指示は通常違法とならない

流通調査は通常独占禁止法の問題とならない

自己の競争者との取引等の制限

ガイドラインが指摘する「自己の競争者との取引等の制限」とは、たとえば、事業者が、マーケティングの一環として、取引先事業者に対し、自己の競争者との取引を禁止・制限する、自社商品のみの取扱いを義務付ける、競争関係にある商品(以下「競争品」といいます)の取扱いを禁止・制限する、取引先事業者の取扱能力の限度に近い販売数量の義務付けを行う等、競争者との取引や競争品の取扱いを制限するような場合をいいます。

原則違法となる場合

  1. ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
  2. ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
  3. 事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
  4. 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
  5. 取引先事業者の数および市場における地位

例外1:市場におけるシェアが20%以下

市場における有力な事業者」とは、市場閉鎖的効果が起こり得る場合を想定して、競争関係にある商品の市場におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となるとされています。
言いかえれば、市場におけるシェアが20%以下である事業者は、取引先事業者に対して自己の競争者との取引や競争品の取扱いを制限する場合であっても、通常、公正な競争を阻害するおそれはなく、違法とはならないとされています。

例外2:正当と認められる理由がある場合

  • 完成品メーカーが部品メーカーに原材料を支給して部品を製造している場合に、その原材料を使用して製造した部品を自己にのみ販売させること
  • 完成品メーカーが部品メーカーに対し、ノウハウを供与して部品を製造させている場合で、そのノウハウの秘密を保持し、または流用を防止させるために必要と認められるときに自己にのみ販売させること

販売地域に関する制限

事業者が販売店の営業地域をテリトリー制によって制限することはよくあるかと思いますが、これを「販売地域に関する制限」といいます。流通・取引慣行ガイドラインでは、次の制限が例示されています。

取引慣行に関する独占禁止法上の指針
責任地域制 一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること
販売拠点制 店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり、販売拠点の設置場所を指定すること
厳格な地域制限 一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること
地域外顧客への受動的販売の制限 一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること

責任地域制、販売拠点制

厳格な地域制限

地域外顧客への受動的販売の制限

価格維持効果が生じる場合とは

価格維持効果が生じる場合」とは、非価格制限行為により、当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ、当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持しまたは引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいい、前記の「市場閉鎖的効果を生じるか否かを判断する際の判断基準」に従って判断されます。

  1. ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
  2. ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
  3. 事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
  4. 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
  5. 取引先事業者の数および市場における地位

流通業者の取引先に関する制限

流通業者の取引先に関する制限の例

取引慣行に関する独占禁止法上の指針 取引慣行に関する独占禁止法上の指針
帳合取引の義務付け事業者が卸売業者に対して、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること
仲間取引の禁止 事業者が流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること
安売り業者への販売禁止 事業者が卸売業者に対して、安売りを行う小売業者への販売を禁止すること

帳合取引の義務付け

仲間取引の禁止

安売り業者への販売禁止

事業者が卸売業者に対して安売りを行うことを理由に小売業者へ販売しないようにさせたり、事業者が従来から直接取引している流通業者に対して安売りを行うことを理由に出荷停止を行ったりすることは、前記の「再販売価格維持行為」に準じ、通常、価格競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定2項〔その他の取引拒絶〕、12項〔拘束条件付取引〕)。

選択的流通について

事業者が自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、この基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することがあります。これを「選択的流通」といいます。
このような「選択的流通」については、2015年の流通・取引慣行ガイドラインの改正により考え方が明確化され、①流通業者に関して設定される基準が、商品の品質保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、②他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、通常、独禁法上の問題とはならないとされています。

小売業者の販売方法に関する制限

  1. 商品の説明販売を指示すること
  2. 商品の宅配を指示すること
  3. 商品の品質管理の条件を指示すること
  4. 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること

適法となる場合

違法となる場合

小売業者の販売方法に関する制限を手段として、事業者が小売業者に対して、販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合には、独禁法上違法となる可能性があり、前記の「再販売価格維持行為」から「流通業者の取引先に関する制限」の考え方に従って違法性の有無が判断されることとされています(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕、一般指定11項〔排他条件付取引〕または12項〔拘束条件付取引〕)。

抱き合わせ販売

複数の商品を組み合わせることにより、新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供することを「抱き合わせ販売」と言います。
このような行為は、技術革新・販売促進の手法の一つとして、それ自体がただちに独禁法上問題となるものではないとされていますが、当該事業者のある商品(主たる商品)の市場における地位等によっては、主たる商品と併せて提供される他の商品(従たる商品)の市場における既存の競争者の事業活動を阻害したり、参入障壁を高めたりするような状況等をもたらす可能性があると指摘されています。

違法となる場合

市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては、前記の「自己の競争者との取引等の制限」の箇所で紹介した考え方に基づき判断されることになりますが、抱き合わせ販売を行う事業者の主たる商品の市場シェアが大きいほど、当該行為が長期間にわたるほど、対象とされる相手方の数が多いほど、そうでない場合と比較して、市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなります。また、従たる商品の市場における商品差別化が進んでいない場合には、そうでない場合と比較して、当該事業者の従たる商品が購入されることにより競争者の従たる商品が購入されなくなるおそれが高く、市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなります。

弁護士法人 三宅法律事務所

2 流通・取引慣行ガイドライン
独占禁止法上の問題を検討する上では、公正取引委員会が策定している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」)が重要となります。流通・取引慣行ガイドラインは、平成29年6月に改正がなされ、ガイドライン全体の構成が変更されるとともに、インターネットを利用した取引に関する記述の追加や、垂直的制限行為(事業者が取引先事業者に対して行う行為)の適法・違法性判断基準の明確化などが行われました。もっとも、今回のテーマである再販売価格の拘束に関する記述については、具体的な事例に関する記述の追加や文言の修正のほかは大きな変更はありません。
再販売価格の拘束に関して、流通・取引慣行ガイドラインでは「事業者がマーケティングの一環として、又は流通業者の要請を受けて、流通業者の販売価格を拘束する場合には、(中略)このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる」と規定されています。また、再販売価格の拘束行為には、セーフハーバー・ルール(市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者が行う場合には、通常は違法とならないというルール)の適用がないとされています。つまり、事業者が再販売価格の拘束を行った場合、事業者の市場シェア等にかかわらず、原則として違法な行為と判断されるということになります。
なお、「正当な理由」がある場合には、例外的に違法とはならないとされていますが、例外の適用の有無については慎重に判断する必要があります。

3 具体的検討
具体的に、どのような行為が再販売価格の拘束として違法となるのでしょうか。
流通・取引慣行ガイドラインでは、「事業者が設定する希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは、それ自体は問題となるものではない」とされており、希望小売価格を伝えること自体は違法ではないとされています。しかし、「希望小売価格」として表示していたとしても、何らかの手段により、当該価格で販売することについての実効性が確保されている場合は、再販売価格の拘束となる可能性があります。例えば、希望小売価格以下で販売しないことを書面または口頭で約束させる、希望小売価格以下の価格で販売する小売店に対して商品の出荷量を減らすなどの不利益を課すといった行為は、再販売価格の拘束を行っていると判断されるおそれがあります。

4 事業者の留意点
事業者が、違法な再販売価格の拘束を行った場合、公正取引委員会により排除措置命令(独占禁止法20条)が課され、違反行為が繰り返された場合には、課徴金納付命令(同法20条の5)の対象となります。事業者としては、希望小売価格を示す際には、再販売価格の拘束と見られないよう、希望小売価格があくまでも参考であり、実際の販売価格は自由に決定できる旨を明示することが望ましいといえます。
なお、前述のガイドライン改正により、インターネットを利用した取引か実店舗における取引かで考え方は異ならないと明示されており、インターネット上で取引を行っている事業者についても、同様に留意が必要です。

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